バレエのレッスンに励んでいる方であればテクニックだけではなく、作品の背景についてより深く触れたいと感じているのでしょう。
■目次
「名作バレエ70 鑑賞入門」は、2020年の8月に世界文化社から刊行
都立総合芸術高校で特別専門講師でバレエ史を教えている、渡辺真弓さんが文章を担当。
国内外の舞台写真のエキスパートカメラマン、瀬戸秀美さんの色鮮やかな写真も掲載されています。
バレエを愛するすべての人たちに贈る、ビジュアル版ガイドブック
チャイコフスキー三大バレエの名前は、まったくバレエに興味がない人でも1度は耳にしたことがありますよね。
チャイコフスキー三大バレエの初演は、実は上手くいってなかった!
鑑賞入門としてまず最初に紹介されているのは「白鳥の湖」ですが、1895年にモスクワで初めて上演された時には「失敗作」とレッテルを貼られてしまったというエピソードには驚かされます。
「くるみ割り人形」も主役のバレリーナの出番が少なかったために、初演からしばらくの間の評判はそれほど芳しくありません。
「眠れる森の美女」の原作には残酷な描写が含まれているために、いかにして万人が楽しめるエンターテインメントにアレンジするのか苦労したそうです。
名作バレエが誕生する陰にはさまざまな試行錯誤、多くの作り手たちの思いが詰まっているのですね。
バレエのトレンド
豪華絢爛な衣装や音楽で19世紀の上流階級の観客を魅力してきたのがロマンティック・バレエ、ダイナミックな動きと物語で幅広いファンの心を揺さぶるのが20世紀以降のドラマティック・バレエ。
時代の移り変わりによってバレエが取り上げるテーマにも、少しずつトレンドが。
バスティーユ監獄の襲撃~マルセイユ義勇兵たちの勝利までを克明に追った「パリの炎」など、政治的な色合いや社会批判を全面に打ち出した作品も珍しくありません。
名門ハプスブルク家の皇太子と未成年の令嬢とのスキャンダルを描いた「うたかたの恋」は、ノンフィクションとしても衝撃を与えました。
20世紀の三大アーティストによる変革
あらすじの起承転結があるのが当然だと思われていたバレエの世界ですが、ひとりの異端児によって更に新しい概念がもたらされることになり…。
絵画の世界ではシュールリアリズムを追及したピカソ、音楽の世界では強烈なリズムと多彩な演奏方法を発展させたストラヴィンスキー。
現代バレエの父、ジョージ・バランシン
このふたりと並んで20世紀の三大アーティストと称される現代バレエの父、ジョージ・バランシンをご存知でしょうか。
振り付け師としてニューヨーク・シティ・バレエ団を立ち上げて、アメリカにバレエの基礎を根付かせました。
それ以上にバランシンが語り継がれるのは、あらすじを真っ向から否定した「プロットレス・バレエ」の生みの親だからでしょう。
優れたダンサーたちによる肉体を極限まで駆使したパフォーマンスがあれば、喜劇や悲劇で必要以上に喜怒哀楽を煽り立てる必要はありません。
バランシンの代表作「セレナーデ」では、水色の妖精のような衣装を身に纏った出で立ちをした17人の女性舞踏家たちがただひたすらに躍り続けるシンプルな構成です。
「このバレエにストーリーはない」というバランシンの言葉からは、バレエは頭で理解するものではなく五感で味わうものであるという強いメッセージが伝わってきます。
「物語」「みどころ」「バレエ史」とポイントを絞って解説
不朽の名作と言われているクラシック・バレエから、歴史のターニングポイントとなったエポック・メイキング作品。
それぞれの国や地域で独自の進化を遂げたユニークな作品までが、「物語」「みどころ」「バレエ史」とポイントを絞って解説されています。
巻末には親日家として有名なモーリス・ベジャールが東京バレエ団とコラボレーションした異色作、「ザ・カブキ」に関する詳細な解説も載っていますよ。
いつかは観たい憧れの1本に、この本を手に取ったことがきっかけで出会えるはずです。
ハンディータイプのサイズで劇場に持っていくのにも最適ですので、本書を通じて是非とも生きたバレエ世界を体感しに行ってくださいね。
コメントを残す