バレエダンサーの、バレエ映画としてだけは見られない作品が、『Maiko ふたたびの白鳥』です。
■目次
「生きる」とは?「幸福」とは?と問いかけてくる
西野麻衣子プロフィール
西野麻衣子さんは、たった15歳で海外に渡り、それからずっとダンサーとして海外で踊り続けていました。
26歳でノルウェー国立バレエ団のプリンシパルとなり、「白鳥の湖」でも主役をつとめる彼女は、しなやかな筋肉と伸びやかな肢体を操り、軽やかに踊ります。
その頃の彼女の映像や、幼いころの彼女の写真、そして彼女の母親の独白とともに、やや暗めの映像で進んでいく本作は、西野麻衣子さんがいかに全身全霊で踊ってきたかを雄弁に語りかけてきます。
若いころの踊り方はやや挑戦的
何もかもに挑みかけるような、気迫のある踊り方は、息をつめて見つめてしまう凄みを感じさせます。
美しくて強い。
それが、この頃の西野麻衣子の踊る姿です。
結婚。そして子どもを望む気持ち
しかし、「バレエが全て」そう言い切っていた彼女が、バレエ団が公演を行うオペラハウスの芸術監督ニコライと結婚をします。
そして「子どもが欲しい」と願うのです。
そう願った時、彼女の中に「迷い」や「悩み」が生じました。
こんなにも女性らしくて柔らかい表情をする人なんだと、胸をつかれてしまうほどに、「出産を」と願う彼女はそれまでとは別人。
「愛することは弱くなること」という言葉を思い浮かべてしまうほどに迷い悩む彼女の背中を押したのは、それまでもずっと彼女の背中を押し、支え続けてきた彼女の母の言葉でした。
「そろそろ自分の人生を考えや」
大阪出身の西野麻衣子さんのお母様の言葉は、関西弁でややユーモラスですが、これほどに核心をついている言葉はないと、私は思います。
バレエに捧げ、バレエの中で生き、バレエのために悩んできた人生
それがどれほどに過酷で、真摯に取り組んでいくべきだったのかは、出産を決意した直後の西野麻衣子さんの表情の柔らかさを見ればわかるでしょう。
バレエはシビアな世界
彼女が出産し休んでいる間に、彼女が踊るはずだった役は、他のダンサーが踊ります。
複雑な表情でそれを見つめる西野さんの姿が長めに映し出されるシーンは、音もなく静かです。
静かなのに訴えかける者が強くて、バレエをしたことのない人でも何かをリタイアしたり、何かをあきらめた経験のあるものなら、彼女の気持ちが痛いほど理解できると思います。
そんなことができる女性なんてたった一握りで、誰もがみんな何かを我慢したり、何かをあきらめていて、それが当然だと思う人の方が、現在の世の中だって多いでしょう。
「幸せ」になるには、全てを手に入れなければいけないわけではなく…。
でも、何もかもを手に入れたいと望むことも悪いことではないはずなのです。
何もかもをと望むなら、それ相応の努力が必要
それ相応の努力…というよりも血のにじむような努力です。
西野麻衣子という人は、それを行いました。
出産後、わずか7ヶ月で復帰
出産後、彼女が復帰までにかけた時間はたった7ヶ月。
体型を元に戻すだけでも1年以上かかったという人もいる中、西野麻衣子さんはトレーニングにトレーニングを重ね「踊る」というところまで自分をもっていきます。
「踊る」ではありません。
主役として「白鳥の湖」を踊るというところまで。
そもそも普通の身体でも「白鳥の湖」の主役なんて踊れません。
それは地位の問題ではなく、体力と表現力、そしてテクニックがかなり必要なのが「白鳥の湖」という演目だから。
並大抵ではない西野麻衣子の努力
その姿が淡々と流される映像に、じっくり目を向けるとそれがいかにハードなものなのかわかります。
そして「思ったように身体を動かせない」と感じてることも。
まとめ
西野麻衣子さんは踊りきります。
しかも、出産前よりも磨き上げられ、見る者に訴えかける力を増した「白鳥」を。
見終わった後、呆然としてしまうのは、単なるバレエ映画としては見られない作品だったからかもしれません。