この映画の感想を一言に表すことはとても難しい。
無理やり言葉にするとしたら「バレエ」というものはもちろんのこと、美しいバレエを創り上げることに関わっているものすべての芸術性を映画にしたような映画です。
■目次
舞台はアメリカの名門バレエ団
一人の女性ダンサーにスポットライトは当たる
バレエを職業にした以上、とにかく努力と鍛錬の毎日。
リアルな練習風景は美しさや繊細さの中にも葛藤や悩み、すっきりとしない日々が描かれています。
ダンサーも一人の人間
「なぜこの映画でそこまでリアルに?」と思うこともありますが、バレエという芸術そのものを作るためだということを納得します。
バレエの舞台で上演される演目は恋愛ものが多い。
悲劇的な恋愛もあれば、周囲の反対を押し切る強気な恋愛。
そして夢のようなロマンチックな恋愛も。
主人公として演じ切るためには、自身の経験が大きく反映される
いつ主役に抜擢されるか、いつ役を降ろされるかわからない、狭き門の厳しいバレエの世界で、1人の人間として些細な感情を舞台の上で表現するダンサーたち。
バレエダンサーの生活をさまざまな視点で描いている
日常生活→稽古→本番(舞台)というダンサーの生活を、バレエ団の経営視点、観客視点、オーケストラ、ダンサーの親など、さまざまな視点からの風景を映し出しています。
このように書くと、バレエを知らない人は楽しめないかもと思うかもしれません。
バレエを知らないからこそ、本当のバレエを知るために見てほしい。
休みなし。バレエ一色の生活を送るダンサー
綺麗な衣装を着て、つま先で立ってクルクル回って、華麗なイメージを持たれることの多いバレエ。
もちろん、それも全部正解なのですが、バレエという芸術に携わるダンサーは、バレエを職業にしたら私生活も全てバレエのため。
普通の会社員であれば、会社で必死に仕事をして、休みの日は趣味や家族、パートナーとの時間を楽しむことができる。
でもダンサーに休みはなし。
1日でも練習やストレッチを怠ったらもとの身体の状態を取り戻すために3日かかると言われています。
全ては舞台の上で、主人公の心情に寄り添い、表現者として表現をするために。
食生活も稽古も、恋愛も全て全て舞台の上に生きてきます。
ほかの物語映画と違う点は、起承転結に欠ける
ダンサーの日常を垂れ流し状態で、その中にいくつものドラマがあるという流れのため、感情の起伏は少ないかもしれません。
最後の舞台の本番のシーン。
厳しい稽古を重ねて迎える本番、という流れだけにより一層美しく、カラフルに感じます。
ダンサー個人に起きてしまうハプニングも、本当にリアル。
それを修復することができるバレエ団という集団も美しい。
ダンサーの人となりというか、私生活や性格も、自然に起こる天災も全部芸術にしたような1本。
前述したようにドキュメンタリー映画のような印象を強く受ける映画です。
マイナーともいえるバレエの世界。
山積みになる課題は果てしないけれど、ゴールが見えぬ技術職。
主演のネーヴ・キャンベルにも注目
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あくまでバレエダンサー「役」なのに、まるで本当にバレエダンサーであり、この人の日常生活を覗いたような感覚。
また、コンテンポラリーという現代舞踏シーンが多くあって、バレエという世界の奥深さもひしひしと感じることができます。
観て楽しめるかどうかはその人次第。
もともとバレエを知っている人も、知らない人も、この映画を見たことで「バレエ」という世界への興味がより強くなったらこの映画の価値が上がると思います。
バレエの奥行きを感じさせる内容
生で鑑賞する舞台芸術のすばらしさ、バレエ界の過酷さ、ダンサーの繊細さ、バレエ団の経営など、ただ見るだけでは伝わってこない、バレエの奥行きを心から感じました。
野外で見るバレエのロマンチックさに憧れ、また早く生でバレエの舞台を見に行きたいなと思わせる1本。
アントルマン監督の着眼点と、カメラワークに大拍手。
何度も言いますが、ドキュメンタリーのようでドキュメンタリーではない。
そこがとっても不思議な感覚。
個人的にはバレエを知らない人こそ観てほしい映画で、もっと舞台芸術について知ってほしいと思います。
まるでドキュメンタリー映画みたいに。