今日は、「ライモンダ」について解説します。[/voice]
ライモンダといえば、菅井円加さんがローザンヌ国際バレエコンクールで優勝した際に踊り、注目が集まりましたね。
難易度の高いバリエーションが多いこの作品。
まずはバリエーションについて。
そのあとストーリーや見どころ、作者について見ていきたいと思います。
■目次
1人で5曲!!ライモンダのバリエーションを解説!
おおよそ、1幕に1曲程度ある主役のバリエーションですが、ライモンダではなんと、5種類ものバリエーションがあります。
内訳は、1幕の各場に1曲ずつ、計3曲と、2幕・3幕に1曲ずつです。
どれも振付の難易度が高く、トゥでしっかりと立てないと踊れない曲です。
それぞれの特徴について見てみましょう。
1)1幕1場 ライモンダの登場(通称:ピチカート)
このバリエーションは、1幕のパーティーのシーンで登場します。
招待客が踊る中、センターに飛び出し、1人で踊るのです。
まだ楽しい雰囲気の中、パーティーの主役であるライモンダが、明るく踊ります。
*動画は、マリインスキーバレエ団のノヴィコワ
ライモンダの振りの特長でもありますが、トゥで立ったままパを展開する難しい振りです。
この曲では、パ・ドゥ・シャやアチチュードが多く、活発な印象を与えます。
なお通称になっているピチカートとは音楽用語で、本来は「弓で弾く弦楽器を指で弾いて演奏する」ことです。
[aside type=”normal”] ※1 パ・ドゥ・シャとは、左右のパッセを連続して行う跳躍のパのこと。※2 アチチュードは片足を軸足とし、反対の足を後ろまたは前に90度上げ、膝を90度に曲げた形にすること。[/aside]
2)1幕2場 ジャンを慕うバリエーション(通称:ベール)
通称ベールと呼ばれるこのバリエーションは、文字通りベールを持った振付が特長です。
*同じく、ノヴィコワによるバリエーション。
可愛らしい音色の曲と、浮き足立っているような、移動や回転の多い振付と、ベールが醸し出す女性らしい優雅さが、まさに恋する乙女、という感じですね。
動画について言えば、ノヴィコワの、踊り終わった後の幸せそうな笑顔もとても魅力的です。
3)1幕3場 夢の中のバリエーション
この曲は、6年前のローザンヌ国際バレエコンクールで菅井円加さんが踊って優勝し、注目を集めました。
この動画ですね。
個人的には、ライモンダの5曲でも1番難しいのではないかと思います。
その理由はいくつかあります。
前半は、ポーズを維持したまま、滑らかに、トゥで立ったり降りたりしなくてはいけません。
また、トゥでしっかりと立ちながら上半身を柔らかく使わないといけないため、強固な軸が必要です。
これらは、ライモンダだけでなくバレエ全般に言えることですが、特に明確に求められるのが、この夢の中のバリエーションです。
更に後半は、最初のゆったりとした曲調から一転、テンポが上がり、ピルエットなど、回転のパが増えます。
こうした優雅さと少し派手なパの対比を1曲の中で表現することも、また、この踊りの難易度を上げています。
>>菅井円加さん@ローザンヌの感想
4)2幕 帰還の宴でのバリエーション
ライモンダの5曲の中でも1番わかりやすい見せ場がある振付です。
回転やジャンプが多く、観客にポーズを見せる間も他の曲より多めに設けられています。
特に、後半に出てくるトゥで立ったままの連続シャンジュマンが見せ場となります。
https://youtu.be/dEUC1C51lYU
*こちらはザハロワのバリエーション。
5)3幕 結婚式のバリエーション(通称:手打ち)
通称通り、手を打つような振付が印象的なバリエーションです。
結婚式、という割には、ピアノソロで始まる暗めの曲です。
*こちらもノヴィコワによるもの
結婚式なのに暗い理由は、やはり2人の結婚がアブデラフマン王子の死の上に成り立っているからでしょう。
ここでは、バレリーナやバレエ団の解釈により、様々な表現がされます。
最愛の人と結婚でき、笑顔で踊ることもあれば、アブデラフマン王子の死を悼みながら踊ることもあります。
また、彼の犠牲の上に成り立った結婚で手放しに喜べない複雑な心情や、より成熟した女性の強さを表すこともあります。
そのため、バレリーナの表情も、笑顔や無表情など様々です。
菅井円加さん@ローザンヌの感想
最後に、ローザンヌ国際バレエコンクールの菅井円加さんについて感想を少しだけ。
演目は、先ほど少し触れた、夢の中のバリエーションですね。
他のバリエーションより詳しめに書きましたが、とても難しいバリエーションです。
コンクールで踊られる曲ではありますが、ブラック・スワンやキトリなどのような派手さはあまりありません。
菅井さんの凄さは、まず丁寧に基本をなぞる技術力です。
自分で踊ってみればわかりますが、高校生であそこまでナチュラルにトゥで立ったり降りたりできるのは、本当に凄いです。
しかも、必ず爪先から立ち、降りる時は爪先からドゥミ(指先を折った、いわゆる背伸びの状態)を通って踵(かかと)をつける、というトゥで立つときの基本が厳守されています。
だからこそ、あんなに安定した滑らかな動きができるのですね。
さらに、上半身のしなやかさ。
足元の難しさを忘れるぐらい、上半身が優雅で、中盤あたりの回転では綺麗に背中を反らせて、どの角度から見ても美しいポーズになっています。
率直に言って、欧米人の持つバレエ体型ではありませんが、この儚さや色気を出せる高校生は他にいないでしょう。
上半身のしなやかさを強調するものとして、柔らかな腕使いもあります。
ポールドブラ(腕の動き)が柔らかく綺麗だからこそ、しなやかに動く範囲が上半身にとどまらず、動きが大きく見えるのです。
ローザンヌをきっかけにドイツに留学した菅井円加さんは、そのまま現在ハンブルグバレエ団に所属しました。
2017/2018シーズンからは、ソリストに昇格します。
今後のご活躍が楽しみですね!
ライモンダのあらすじと概要
作品情報
ライモンダは、アレクサンドル・グラズノフ作曲、マリウス・プティパ振付のバレエオリジナル作品です。
全3幕から構成され、上演時間は2時間強、休憩込みで3時間程度。
主役のバリエーションが長短含め5つもある珍しいバレエ作品です。
また、2幕などで様々な民族舞踊を基調とした振付が楽しめることも、「ライモンダ」の特徴です。
- 主人公のライモンダ
- 婚約者のジャン
- ライモンダに恋をするアブデラフマン王子
また、ライモンダに未来の波乱を告げる白い貴婦人も、出番は少ないながら重要な役割を果たしています。
その他、ライモンダの父・アンドレ二世や、ライモンダの友人、ジャンの仲間、アブデラフマン王子の付き人らがいます。
あらすじ
第1幕第一場
物語は、ライモンダの名のお祝いの日のパーティー(※)で始まります。
華やかなパーティーには、十字軍として遠征を控えたライモンダの婚約者ジャンも出席していました。
2人はパーティーで、しばしの別れを名残惜しみながら、愛を誓います。
[aside type=”normal”] ※名のお祝いの日:ロシアの習慣で、洗礼名と同じ聖者の命日を祝う日。[/aside]第二場
遠征準備のため、ジャンはパーティーを後にし、残されたライモンダは、彼を想いながらリュートを演奏します。
次第に彼女の友達らも合流して一緒に踊りますが、やがてライモンダは眠りに落ちてしまいます。
第三場
眠っているライモンダのもとに、白い貴婦人が現れ、ジャンの幻を見せます。
ライモンダがジャンの幻と踊っていると、突然ジャンが消え去り、見知らぬ男がやって来てライモンダに求愛します。
そして白い貴婦人から、波乱の予言を受けるのです。
そこでライモンダが飛び起き、不吉な夢を見たと気づくのです。
第2幕
今日は、ジャンが遠征から戻る日。
お祝いのパーティーの夜、夢に現れた男がライモンダに熱烈に求愛します。
その男は、サラセンの王子アブデラフマンでした。
しかし、ジャンに一途なライモンダは、全く気に求めません。
苛立ったアブデラフマン王子は、ついにライモンダを誘拐しようとします。
そこへ帰還したジャンは驚き、婚約者のライモンダを賭けてアブデラフマン王子と決闘することになりました。
結果はジャンの勝ち。
ジャンとライモンダは再会を喜びます。
一方、負けたアブデラフマン王子はこの決闘で命を落としたのです。
第3幕
アンドレ二世らに祝福され、ジャンとライモンダと結婚式を挙げます。
バレエ団ごとに異なるストーリーの解釈
くるみ割り人形などと同様、ライモンダも版によってストーリーが異なることがあります。
例えば1幕のパーティーでは、ジャンの出兵直前とするものと、ジャンが帰ってくる前日、とするものがあります。
また、アブデラフマン王子に対するライモンダの心情も異なります。
あらすじでは、ライモンダが見向きもしないとしましたが、ジャンとの間で揺れ動くという解釈をする場合があります。
特にこのライモンダの心情の違いは、後のストーリーに影響を与えます。
アブデラフマン王子の死と結婚式に対するライモンダの感情が変わるからです。
そのため、ライモンダの結婚式のシーンのバリエーションにおいて、笑顔で踊る場合と、無表情で踊っているものがあります。
バレエのために作られた物語
ライモンダには、原作がありません。
マリウス・プティパの創作と言われています。
しかし、対応関係から「眠れる森の美女」の二番煎じと揶揄されることもあります。
例えば、1幕。
「ライモンダ」も「眠れる森の美女」も、主役の登場シーンは、本人のお祝いの日(名の祝いの日と誕生日)です。
また、危険を知らせる「白い貴婦人」はリラの精と対応しています。
「ライモンダ」の夢のシーンは、「眠れる森の美女」で、王子が森でリラの精に出会い姫の幻を見せるシーンを彷彿とさせると言われています。
主人公のジャンにも、モデルがいたという説もあり、「ライモンダ」は様々なヒントを集めて、プティパが作り上げた作品と言えるのです。
作曲家グラズノフについて紹介
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BA%E3%83%8E%E3%83%95
アレクサンドル・グラズノフは、1800年代後半〜1900年代初期に、ロシア帝国およびソビエト連邦で活躍した作曲家・音楽教師・指揮者です。
音楽のスタイルとしては、民族主義を基調にしつつ、ロシアロマン主義と融和させた折中派に当たります。
彼が作ったバレエ音楽の中では、この「ライモンダ」と、「四季」が有名です。
また、グラズノフはショパンのピアノ曲を寄せ集めて管弦楽化し、「レ・シルフィード」を作りました。
グラズノフの略歴
グラズノフは、サンクトペテルブルグで生まれ、9歳からピアノを、13歳から作曲を学び始めました。
その才能は早々に開花し、すぐに高名な作曲家たちが認めるようになります。
そして、彼らによる指揮でグラズノフの曲が上演されたり、楽譜が自費出版されたりしました。
その後、国際的に賞賛され、20代後半のスランプ期を乗り越えると、30代半ばまでに多くの交響曲や弦楽四重奏を作曲。
ライモンダを作ったのもこの頃です。
こうした業績もあり、34歳でペテルブルグ音楽院の教授に就任。
数年後には、その音楽院の院長も務め、レニングラード音楽院への改組を担い、そこでも院長を務めました。
しかし、晩年は仕事でヨーロッパに行ったまま死ぬまでソ連には戻りませんでした。
彼の最も有名な門弟には、ショスタコーヴィチがいます。
指揮者としてはあまり熟達しなかったものの、指揮することは好きで、23歳の時に指揮者デビューを果たしました。
第一次世界大戦やロシア内戦などの混乱の中でも指揮者として活動し続け、晩年は欧米諸国でも指揮台に上がりました。
振付家プティパについて紹介
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%91
マリウス・プティパといえば、バレエ好きなら誰もが知っている振付師ですね。
振付師だけでなく、バレエダンサーや台本作家でもあった彼は、クラシック・バレエの基礎を築いた人としても有名です。
プティパの略歴
1800年代にフランスのマルセイユに生まれ、ヨーロッパで活動した後、ロシアに拠点を移し、活躍しました。
プティパの家は芸能一家で、父親がバレエの振付師、母親が女優で、兄がバレエダンサーでした。
彼の初舞台はまだ10代前半の1831年、隣国ベルギーのブリュッセルにあるモネ劇場です。
10代後半はベルギーの独立革命を逃れ、フランスに戻って活動し、20歳頃に北米巡業を行います。
そして一度フランスに戻ったものの、20代の後半は活動の拠点をマドリッドに移しました。
30歳になる手前でロシアに移り、マリインスキー劇場と契約した後は晩年まで活動の拠点が、ロシアのままです。
最初はプリンシパル・ダンサーとして契約し、その後ダンサー・振付師・台本作家として活躍しました。
50歳頃にバレエ監督に就任。
80代半ばに退任するまで、数多くの作品を発表しました。
プティパの振付作品は、「ライモンダ」だけではなく、今でも愛される作品が多くあります。
三大バレエである、チャイコフスキーの「眠れる森の美女」、「くるみ割り人形」、「白鳥の湖」や、レオン・ミンクス作曲の「ドン・キホーテ」は知らない人はいないでしょう。
まとめ
「ライモンダ」いかがでしたでしょうか。
色々な批判もありますが、古典的なマイムと民族舞踊を合わせた振付や、ストーリーよりも音楽を重視した作りは古典バレエと現代バレエの架け橋とも解釈されています。
1曲1曲も美しく、見応えがありますが、全幕通して見たときのバリエーションの変化や、ライモンダへの感情移入をしながら揺れ動くのも楽しいでしょう。
直近では、3月に行われる2018都民芸術フェスティバルで、日本バレエ協会が「ライモンダ」を全幕で上演します。終了しました。
3日間の公演で、主役は、下村由理恵さん、米沢唯さん、酒井はなさんです。
ご興味のある方は、ぜひご覧ください!
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