■目次
著者について
2011年の5月に世界文化社から刊行されている、吉田都さんと篠山紀信さんの共著によるフォトエッセイ集になります。
吉田都さんの一瞬一瞬の美しさを、写真家篠山紀信さんが見事に切り取っています。
吉田都さん
1983年のローザンヌ国際バレエコンクールへの入賞で一躍注目を浴びた、東京都出身のバレエダンサーです。
イギリスのロイヤルバレエスクールに移籍後は活動の拠点を海外へと移して、自身の公演の他にも後輩の育成にも力を注いできました。
篠山紀信さん
画像引用:ウィキペディア
日本大学芸術学部の写真学科に在籍当時から、新進気鋭の写真家として有名です。
広告制作会社の勤務を経て、フリーのカメラマンとしてジョン・レノンから山口百恵まで時代を象徴する人物の撮影を続けています。
ジャンルは違えども挑戦者として相通じるものがある、ふたりの異才の豪華なコラボが実現した作品です。
憧れの世界へと飛び込んでいく
吉田都さんが如何にしてバレエの世界へ足を踏み入れていったのか、第1章「信じる力」では語られています。
小学1年生のときにお友達の発表会を見たことがきっかけになり、母親におねだりしてバレエ教室に通い始めたというエピソードが微笑ましいですね。
町中のバレエ教室では物足りない彼女が向かった先は、本格的なクラシックバレエのスタジオでした。
木の香りが漂う床、四方八方に張り巡らされた鏡、煌びやかなトウシューズ。
若干9歳の少女にとっては、見るもの聞くもの全てが新鮮な驚きのはずです。
1年間休まずに厳しいトレーニングをこなした彼女が、先生からロシア製のサテンのトウシューズを受け取るシーンが印象的でした。
初めての挫折感を乗り越えて
もちろんプロのバレエダンサーへの道のりは、決して平坦なものではありません。
中学生時代に著者は全国舞踏コンクールで見事1位に耀きますが、酷使してきた膝は次第に悲鳴を上げていきます。
遂には精密検査を受けて医療機関で治療に専念することになり、大好きなバレエを取り上げられてしまった逸話には胸が痛みました。
そんなときに彼女に救いの手を差し伸べてきたのは、ヨガインストラクターの矢沢白雲です。
バレリーナを志す女子中学生とヨガの先生とのミスマッチが、何とも味わい深いものがあります。
若いうちには一見するとまわり道に思えることでも、勇気を振り絞って取り組んでいくことを考えさせられました。
新天地で自分自身を見つめ直す
イギリスへの留学を経験した吉田都さんが、ロンドンのサドラーズウェルズ・ロイヤルバレエ団に入団した頃の思い出話も興味深いです。
1年ごとの契約更新になり5週間の有給休暇付きで、衣装から髪飾りにバレエシューズまで支給される至れり尽くせりは驚きでしょう。
プロである限りは全てが与えられて、個人の財産で負担しなければならないものはありません。
その分だけダンサーたちに要求される自己管理能力は、より一層厳しく高度なレベルになります。
仮契約の不安定な身分だった著者が怪我をしないように始めたことは、自分の足にフィットするシューズを探したり身体の軸や足の使い方を工夫することです。
新しい場所でのチャレンジが、自分自身を変えていくことを感じました。
旺盛な好奇心と飽くなき探求心を持ち続ける
全編を通して力強いメッセージに満ち溢れているなかでも特に心に響いたのは、「プレッシャーは大嫌いでもあり、快感でもある。」です。
英国ロイヤルバレエ団のプリンシパルにまで上り詰めた彼女も、2010年の6月29日に最後の公演を迎えることになりました。
上演に選んだ「ロミオとジュリエット」の幕が上がる直前に、彼女の胸の内を過ぎったのがこの言葉になります。
本場前のプレッシャーが大きければ大きいほど、乗り越えた時の喜びも格別です。
22年間の長期に渡ってプリンシパルの座に就きながらも、初めてバレエを見た幼い頃のときめきを決して忘れることのない彼女の謙虚な姿勢に胸を打たれました。
これからも大好きな踊りを続けて
ロイヤルバレエ団の退団は吉田都さんにとって大きな区切りになりますが、巻末にはこれからも踊り続けていく強い決意が記されていました。
篠山紀信さんが捉えた彼女の姿は、撮影当時既に40代の半ばに差し掛かっていたとは思えないくらいの躍動感です。
自分の好きなことにとことん打ち込むことが、美しさと若さを保つ秘訣なのかもしれません。
今現在バレエに携わっている方たちばかりではなく、新しい何かにチャレンジしてみたいと思っている方も是非ともこの1冊を手に取ってみてくださいね^^
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