今日は「リーズの結婚」について解説します。[/voice]
原題を「ラ・フィーユ・マル・ガルデ(監督不行き届きの娘)」というこの作品は、実は「ジゼル」と並んで最古のクラシック・バレエと言われています。
悲劇のジゼルと対照的に、今でいう”ラブコメ”の「リーズの結婚」。
原作がなく、バレエオリジナルの作品です。
一体、どのような作品なのか、見ていきましょう。
■目次
役の紹介
物語の登場人物は、農家の一人娘リーズと、その恋人で貧乏農夫のコーラスを中心に展開します。
2人の恋路を邪魔するのは、リーズの母親シモーヌ。
彼女は悪役ながら、コミカルな役回りで笑いを誘う重要な役どころです。
母親の役ですが、多くの場合、男性が演じます。
コーラスのライバルは、アラン。
素直な性格ですが、突飛な行動が多く、時に変わり者としてからかわれます。
アランは裕福な農家の一人息子で、リーズの母親シモーヌと、アランの父トーマスは、アランをリーズと結婚させようとします。
あらすじと見どころを解説
1幕
農家の一人娘リーズと、同じ村の青年、コーラスは恋人同士。
しかしリーズの母シモーヌは、リーズを裕福な家に嫁がせたいと考え、2人の交際をよく思っていませんでした。
ある日、裕福な農園主のトーマスがやってきて、一人息子のアランとリーズを結婚させたいと話しました。
リーズは変わり者のアランとの結婚を嫌がりましたが、シモーヌは大喜びし、トーマスと意気投合します。
そこでシモーヌとトーマスは、アランとリーズを農夫たちが集まる麦畑へ連れて行きました。
話を聞きつけたコーラスも麦畑に到着。
リーズは、事情を知る農夫たちの協力を得て、シモーヌとアラン親子をまき、コーラスと合流して、農夫達が見守る中、仲良く踊ります。
2幕
麦畑で楽しい時間を過ごしていたものの、突然の雨で場は解散に。
帰宅したリーズは、同じく帰宅していた母の目を盗んでコーラスに会おうとします。
リーズを見かねたシモーヌは、2人を会わせないように扉に鍵をかけ、リーズを閉じ込めてしまいます。
しかし、いつしか居眠りをしてしまったシモーヌ。
それを待っていたかのように、コーラスがやってきて窓から身を乗り出し、リーズと愛を語ります。
シモーヌが目を覚ますと、農夫たちが収穫した沢山の麦の束が届きました。
麦を受け取ったシモーヌは、リーズとアランの結婚準備を進めるため、リーズを閉じ込めたまま出かけてしまいます。
リーズは落ち込み、コーラスとの未来を妄想していると、なんと麦の束の中から、隠れていたコーラスが飛び出しました。
リーズは、妄想を聞かれていた恥ずかしさに慌てますが、再び会えたことに喜び、2人は愛を誓います。
そこへシモーヌが帰宅。
慌てたリーズはコーラスを2階の寝室に隠しますが、リーズを怪しんだシモーヌは、コーラスがいるとも知らずに2階の寝室にリーズを閉じ込めます。
やがて、公証人を連れたトーマスとアランが登場。
結婚式の書類に署名をしたアランが、リーズの署名を求めて彼女の部屋を開けると、リーズとコーラスが仲良く抱き合っていました。
2人の仲睦まじい姿を間近で見た公証人は、コーラスとリーズの仲を認めるべきだとシモーヌに言い聞かせます。
そして、シモーヌはやっとコーラスとリーズの結婚を認めます。
そのことに腹を立てたトーマスはアランとその場を立ち去ります。
リーズとコーラスは農夫たちにお祝いを受けながら遂に結ばれたのでした。
上演時間
公演の時間は、約2時間です。
例えば、メジャーなアシュトン版を上演しているバーミンガム・ロイヤル・バレエ団では、公演時間を以下のように記載しています。
- 1幕70分
- 休憩25分
- 2幕45分
本作の歴史
「ラ・フィーユ・マル・ガルテ」が初めて上演はされたのは、1789年で、フランスのボルドーにある劇場でした。
なんと上演日は、フランス革命におけるバスティーユ襲撃事件の2週間前!!
このような時期だからこそ、王政に辟易していたフランス国民にとって、農村を舞台にした本作は受け入れやすかったようです。
シンプルなストーリーと、「ロミオとジュリエット」を彷彿とさせる設定が、人々の興味を引き、その後世界に広がっていきました。
初演時は当時の流行歌などをアレンジしてまとめた楽曲を用いていましたが、その後の革命もあり、作品としては台本とタイトルしか残りませんでした。
1828年にエルナン・エロールが初演時の曲を抜粋、新たに作曲し、ジャン・オメールが振付けを改定して、パリ・オペラ座で上演されます。
その後も各国で改定が続けられ、現在は1828年のアシュトン版がメジャーになりました(後述)。
また、ルートヴィヒ・ヘルテルが作曲、マリウス・プティパとレフ・イワーノフが振付けたロシア版もよく上演されています。
日本での初演は、1991年で、牧阿佐美バレヱ団がアシュトン版で上演しました。
その後、同バレエ団の十八番として位置付けられ、何度も再演しています。
アシュトン版について解説
先ほど、「リーズの結婚」はアシュトン版がメジャーだというお話をしました。
このアシュトン版は、パリ・オペラ座版の音楽がベースです。
ジョン・ランチベリーが、エロルドの曲をアレンジし、フレデリック・アシュトンが振付けました。
ジョン・ランチベリーはエロルドの楽曲だけでなく、他の版も参考にした上でアレンジし、新たに自分で作った曲も追加したと言われています。
そうして出来たアシュトン版「ラ・フィーユ・マル・ガルテ」は、1960年、英国ロイヤルバレエ団によって上演され、世に出ました。
本作を演出するにあたり、アシュトンは、登場人物の個性を際立たせ、効果的に様々な小道具を用いて振付けました。
例えば、奇行の多いアランが気に入っている赤い傘や、リーズとコーラスのパ・ド・ドゥなどでメイポールやリボンなどがそれです。
また、シモーズの見せ場である木靴のバリエーションも木靴というアイテムがポイントになっています。
そしてアシュトンらしい細かく躍動的なステップが、コメディ作品らしい面白さを強調しています。
バリエーションの説明
[voice icon=”http://ballet-ambre.com/wp-content/uploads/2017/10/mikiko.jpg” name=”ミキコ” type=”r icon_red”]ここでは特徴的な3つのパ・ド・ドゥを紹介します。[/voice]1)あやとりのパ・ド・ドゥ
1幕で流れるあやとりのパドドゥは、この作品の見せ場の1つです。
リーズがコーラスと会っている途中、母親に邪魔をされ落ち込んでいたところ、コーラスがこっそりと戻ってくるシーンです。
リボンを揺らし、体に巻きつけ合う振りは、2人の仲の良さが伝わります。
そして最大の見せ場は、お互いの体に巻きつけあったリボンを上から外すと、模様ができていること。
この振りから、「あやとり」の通称が付いています。
綺麗な模様を完成させるのは難しく、公演中でも、変なところに結び目ができてしまったり、綺麗に解けなくなってしまうことがあるようです。
見事完成したら、盛大な拍手をしましょう。
2)リボンのパ・ド・ドゥ
アランたちを巻き、リーズとコーラスが会えたシーンのパ・ド・ドゥです。
会えた喜びを表すような軽やかなパ・ド・ドゥと、笛の音が可愛い女性のバリエーション。
その後、この演目の見せ場であるリボンを使ったパ・ド・ドゥが始まります。
ここでは、コールドダンサーとリーズ/コーラスがリボンの両端を持ち、フォーメーションを変えながら振り付けが進むのです。
時に男性のサポートなしに、コールドダンサーとつながったリボンだけでバランスを取らないといけない振り付けは、難易度が高いと言えます。
後半になると主役2人だけで踊りますが、コールドの方はリボンを器用に使って綺麗なフォーメーションを作っていきます。
そして短めの男性のバリエーションを挟み、最後のコーダは、アップテンポで細かいパが続く快活な振り付けが展開されます。
3)木靴の踊り
リーズの母、シモーヌの見せ場のバリエーションです。
リーズはシモーヌを巻くために木靴をプレゼントします。
最初は断るシモーヌですが、おだてられて履くと楽しくなり、農村の女性たちと踊り始めます。
場面の性質上、笑いの要素が強くコミカルな振り付けが特徴です。
足を踏み鳴らすという意味で、タップダンス的な要素があり、軽快な振り付けが展開されます。
また、可愛らしい女性たちと不器用に踊る大柄な(=男性の)シモーヌとのギャップが笑いを誘います。
小道具のメイポールとリボンについて解説
上のバリエーションでも見たように、「リーズの結婚」では、リボンが多用され、併せてメイポールもよく登場します。
メイポールとは、古代ローマのお祭りである五月祭で用いるお祝い道具です。
五月祭は、地域によりますが5月1日(メーデー)に行われる、豊作祈願のことです。
ヨーロッパでは、樹木の霊魂が雨や晴れと言った天気を決め、農作物や家畜を繁栄させると信じられていました。
そのため、春の始まりである5月1日に、春になって蘇った樹木の霊魂の恩恵にあずかろうと、お祝いを始めたのです。
五月祭は、豊作だけでなく、生育・繁殖も併せて祈願され、結婚はその象徴です。
結婚をテーマにした本作が、五月祭に合わせられていたのも、そう言った意味があるのでしょう。
五月祭の時には、森の木を切って5月の柱(=メイポール)とし、広場の中心に立てます。
そして参加者は、メイポールのてっぺんから流れ落ちるリボンを持って、メイポールの周りを踊りながら回ります。
https://www.youtube.com/watch?v=makPAaIU98k
まとめ
「リーズの結婚」、いかがでしたか?
最古の古典作品とはいえ、邦題が「リーズの結婚」で定着したのは比較的最近のことかもしれません。
以前は、「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」、「無用な心配」など、様々な邦題が付けられていたようです。
分かりやすいストーリーとコメディタッチな作風が、長く愛されるポイントなのでしょう。
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