【映画ブラック・スワンの考察】心理学的観点から評価してみました。ネタバレあり。




バレエ団を舞台にしたサイコスリラー作品「ブラック・スワン」
バレエ映画として期待すると少し物足りないかもしれませんが、バレエを切り口に1人の人間に潜む多様性や恐ろしさを描いています。

R15+の問題作、「ブラック・スワン」を見た感想です。

数多くの賞を受賞した「ブラック・スワン」

「ブラック・スワン」は、ダーレン・アロノフスキー監督により作られ、2010年に公開されたアメリカのサイコスリラーです。
世界の様々な映画賞で受賞・ノミネートされました。

特に主演のナタリー・ポートマンは、アカデミー賞など様々な国際的な賞で主演女優賞を受賞し、高い評価を得ました。

バレエについて言えば、小さい頃にバレエを習っていたナタリーは、1年間の集中レッスンを受け、撮影に臨んだそうです。

黒鳥など難しいシーンに関しては、アメリカン・バレエ・シアターのサラ・レーンがダンス・ダブル(*)を務めています。

しかし映画のクレジットでは、サラはエキストラ扱いで、名前が載ることはありませんでした。
このため、観客の多くは、あたかもナタリーが全て踊ったかのように認識ました。

観客に誤解を与えたことに対し、「ダンス・マガジン」の当時の編集長はブログで警鐘を鳴らしました。

彼に対し、撮影関係者がナタリーを擁護し、論争が巻き起こりました。

* ダンス・ダブル:ダンスシーン用の替え玉ダンサーのこと。

「ブラック・スワン」ってどんなあらすじ?

少し驚いた表情のニナ
若手バレリーナのニナは、バレエ団が次世代プリマのお披露目として行う「白鳥の湖」で、主役候補になります。

生真面目で臆病な彼女は、白鳥のイメージにぴったりでした。
ですが、欲を前面に出し、王子を誘惑する黒鳥には向いていません。

彼女は、自分でも黒鳥はできると演出家のトムに直談判し、初めて主役の座を掴みます。
しかしレッスンが始まると、ニナは黒鳥に苦戦。

トムは、性的な魅力が足りないと指摘し、完璧を求めるあまり自分が出せないニナに、トムは「自分を解放しろ」と言い続けます。

ライバルや古株のプリマ、過干渉な親に囲まれ、ニナは不安とプレッシャーから精神的に追い詰められていきます。

次第に、妄想や幻覚が始まり、それらは日増しに酷くなっていきました。

そして公演前日。
ニナは自分の代役にライバルのリリーが抜擢されたことを知り、主役を奪われるのではないかと更に怯えます。

パニックを起こしたニナを心配した母親は、初日当日、ニナが寝ている間に「体調不良で舞台に出られない」と勝手に劇場へ連絡。

夕方起きて、それを知ったニナは母親の制止を振り切り、主役は自分だと言って舞台に立ちます。

果たして、ニナは白鳥を踊りきれるのでしょうか。

バレエに期待すると物足りない

愛憎を描いたバレエ作品、と言われていましたが、実際はサイコスリラーの要素が強いです。
バレエの世界の話というよりも、主人公が自分の弱さに直面していくというストーリーの土台にバレエがある、という印象です。

例えば役作りがうまくいかない時、主人公が悩み考える姿は描かれません。

また、ニナはライバルのリリーに誘われて、夜のバーに行きます。

そこで、覚せい剤(麻薬?)を飲まされてバーで出会った男性と性的関係を持ちそうになったり、酷い幻覚を見たりしました。

レッスンや公演のシーンもありますが、あくまでも主人公の心情や状態に重きを置いているので、舞台やバレリーナの美しさはあまり堪能できません。

とにかく、ニナの視点で、彼女の妄想世界に入り込んでいくストーリーです。

サイコスリラーとしては秀逸な作品

ニナの背中の傷跡バレエを期待するとだいぶ物足りませんが、サイコスリラーとしてはとても面白い作品でした。

ニナの視点で描かれているため、いつから妄想が始まったのか、どこからが妄想なのか、見ている側もわかりません。

だからこそ、臨場感があって、とても怖いです。

リリーの背中に入っている大きな刺青が蠢くシーンや、母親の描いた絵に描かれた人たちが話しかけてくるシーンなどは、本当に怖かったです。

また、先の展開が読めず、どのような形で終わるのかが全くわかりませんでした。
映画が終わって初めて、「あ、これがラストか」と思ったほどです。

そして見終わってから、白鳥の湖とリンクしている点があることに気づきました。

「白鳥の湖」バレエのあらすじやバリエーションなどを解説してみました。

2018.04.30



コンプレックスが妄想として現れる

とても驚いた表情のニナサイコスリラーだけあって、この作品は、心理学的な側面で考えさせられることがたくさんありました。

その1つが妄想です。

心理学的にいえば、妄想は、その人の弱点やコンプレックスが現れることが多いのですが、彼女も例に漏れません。

 

ニナの幻覚・妄想はの2つのテーマ
  1. 性的なものへの畏怖

彼女は以前、自分の体をひっかく癖がありました。
また、指先にささくれができた時に、自分で皮を引っ張って血を流すこともあります。

そうした血を流すことへの囚われから、手が血だらけ、といった幻覚をしばしば見ていました。

性的なものへの畏怖

色気が無くて黒鳥が踊れないこと、トムが女好きでトムへの枕営業が横行しているらしいことから、性的な光景が幻覚で見えてしまいます。

この2つのテーマが、主役を奪われることへの不安と混ざり合って、彼女の妄想世界が繰り広げられて行きます。

ニナの親子関係と精神的な自立

ニナの頬を撫でる母親心理学的に面白い点の2つ目として、ニナの親子関係があります。

ニナの母親は、子供(ニナ)のためにバレエを辞めた人なので、ニナに過剰な愛と期待を注ぎます。

最近で日本で言われるところの、「毒親」の見本のような人です。
過保護な親は、子どもの成熟を阻害し、臆病にする、という見本のような展開でした。

個人的には、ニナが人として未熟だからこそ、性的な魅力が乏しかったのではないかと解釈しています。

ニナは友達もおらず、母親との関係の中だけで生きているのです。

彼女のいう「完璧」も、ルールを守り悪いことはしない、正確な踊りをする、といった真面目さを指しています。

まさに子どもが親に求められるものを目指しているのです。

この壁が壊す1つのきっかけが、リリー

ある時、母親に反発したニナはリリーの誘いに乗って夜の街に繰り出します。
そこでリリーに麻薬(覚せい剤?)を勧められ、ニナは一度断ります。

しかし、その後、自分のお酒に薬を混入された時は、気づいていながら自ら口にしました。
そして、近くにいた男性と一晩の関係を結びかけるのです。

リリーは、友達ではありませんが、ニナをかまいたがる唯一の同年代の女の子でした。

また、リリーと遊びにいく前後には母親と喧嘩をしており、彼女が親元から自立しようとし始めていることが伺えます。

ただ、荒療治だったというか、タイミングが悪かったのか、この後ニナの幻覚は悪化します。

今まで母親との世界にいることで、そして生真面目に”完璧”でいることで、守っていた彼女の砦が崩れ、欲やドロドロとしたものが溢れてきたからです。

人格の統合=オデットもオディールも演じられること

黒鳥オディールの濃いメイクをしているニナの顔最後の心理学的な見どころであり、バレエとの関わりが出てくるのが、ニナが白鳥の湖を踊ること、です。

この作品では、白鳥と黒鳥を(バレエ作品としての解釈以上に)対極のものとして捉えています。

白鳥は、繊細で清らかで、臆病な、まさに作品前半のニナそのものです。

黒鳥は、欲から王子を誘惑し騙す、いわば人間の本能的な欲や攻撃性を表しています。

人間は誰でも白鳥、黒鳥それぞれの要素を持っています。
作品前半のニナのように、綺麗なだけの人間は、未熟、つまらないと感じられてしまうのでしょう。

トムが、前のプリマたちを指して、攻撃的、破壊的な部分を持っているとニナの前で褒めたことが、それを裏付けています。

トムが求めた、白鳥と黒鳥が両方踊れる人、というのは、人間の清らかな善の部分と、欲に忠実な(時には)悪の面を統合し共存させ、それぞれを使い分けられる人だったのではないでしょうか。

それが、人として成熟した状態なのではないかと思います。

ニナは、自分の中の本能的な欲に向き合えずにいました。
そんなニナに、トムは、教えたかったのでしょう。

欲と向き合い、適切な形で表に出すことが人として、表現者として大事なのだと。

ただニナは、その本能的な部分と短時間で向き合わなくてはいけませんでした。

唐突に、向き合った恐怖と、主役のプレッシャーに耐えられなくなったことで、ニナは妄想・幻覚に襲われたのではないでしょうか。

初日に黒鳥を踊る直前、ニナは自分の攻撃性を目の当たりにし、自己主張をしました。
だからこそ、追い込まれて現れた凄みが、ニナの黒鳥を完璧にしたのだと思います。

まとめ

長くなりましたが、いかがでしたでしょうか。

バレエ作品だと期待してみると少し物足りないかもしれませんが、映画としては大変面白い作品だと思います。

構成、演出、ナタリー・ポートマン他、出演者の方々の演技力、すべて質が高いと思いました。

また、この映画を通して、完璧であること、表現すること、人間的な豊かさとは何か、をとても考えさせられました。

心理学的な側面が強く出る作品ですが、女性だけの世界であることや、嫉妬が渦巻くバレエの世界だからこそ、描けた恐怖もあります。

また、白鳥と黒鳥のコントラストを、人間の本質になぞらえて上手く取り入れた作品だと思います。

その意味では、踊ることの苦悩やバレエの美しさが描かれているわけではありませんが、やはりバレエ作品なのだと思います。

なお、上記はあくまでも1度見ただけの印象に基づく感想です。
妄想と現実の境目をどう捉えるかで、解釈の仕方も変わります。

また見直せば、作品に対して新たな発見がありそうで、繰り返し見たいのですが、刺激的なシーンが多くて見返せる自信がありません。

ちょっとツラいシーンが多くありますが、非常に面白い作品なので、性的描写や流血に耐性のあるなら、是非ご覧ください。

ミキコ
アカデミー賞主演女優賞を獲得したナタリーの演技は必見です。






2 件のコメント

  • 心理学的な要素が絡むストーリーであったり、人間のドロドロした部分が描かれているストーリー
    私、大好きなんです‼︎♡ 笑

    嫉妬、妄想と現実……人の心って簡単に壊れてしまったり狂ってしまう…
    この作品はとっても怖そうなので観るのは勇気がいりそうですが、魅入ってしまいそうです。

    『バレエ』という世界の美しさと過酷さを知ることが出来て、バレエを良い意味で更に引き立ててくれた作品かもしれませんね。

    • ぴのんさん、コメントありがとうございます。

      ブラック・スワンではナタリーポートマンの演技が見どころですよ。
      バレエが全面的に出てくるというよりもサイコスリラーとしての側面が強いので、バレエに馴染みのない方でも楽しめると思います。
      興味があれば興味があればぜひ見てくださいね。

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    こんにちは、ミキコです。 小学1年生〜高校2年生までバレエを習っていました。 一旦はやめたものの20代半ばで再開し、今は週3回レッスンを受けています。 バレエの面白さをもっと知ってもらうために、このブログを書いています。